カーディストリー(Cardistry)って知ってますか?
カーディストリー(カードフラリッシュ)は、トランプ・マジックの「カード裁き」自体を独立させたパフォーマンス・アートで、今、世界での人口がひそかに急増しています。
そんな新たなカルチャーシーンの黎明期を牽引する重要人物の一人であり、WKC(世界フラリッシュ動画コンテスト) 2013/14の世界王者でもあるJaspas Deckくんが今年の秋にシンガポールから来日。カーディストリーへの素朴な疑問から世界の動き、Jaspasくん自身の活動についてインタビューしてきました。
前編では、カーディストリー・シーンの現状やJaspasくんがカーディストリーを始めたきっかけ、技へのこだわりなどをどうぞ。
世界で話題になったシンガポールチームのYouTube動画
Rumi:Kuma Filmsチャンネルで公開されたJaspasくんたちの動画、すごく話題になっていましたね(公開からわずか数週間で50万再生突破)。カーディストリー自体がまだそれほどメジャーではない中で、なぜこんなに多くの方に注目されたのでしょう?
Jaspas:8人でやったからかな? 良い意味で多様性があり、視聴者の方々がそれぞれ好きなスタイルを楽しめたのかもしれません。(撮影にあたって)最初に誘ったChun Chiehがほかの人にも声をかけてくれたんですが、Kuma Filmsは多彩なアーティストとのコラボが好きなので、8人で一緒にやるのは面白そうだなと思いました。
インターネットで加速するコミュニティ
Rumi:カーディストリーのコミュニティは今どのくらいの規模ですか?
Jaspas:想像になってしまうけど、シンガポールで100人くらいかな。18歳〜20歳くらいが多くて、一番若い人は13歳。動画を投稿している人ばかりじゃないから本当の人数は誰にも分からないけれど、世界では1,000〜2,000人くらいでしょうか。オンラインでのコミュニケーションが多いですよ。
Rumi:カーディストリーのメッカ(聖地)はありますか?
Jaspas:うーむ…。シンガポールとアメリカかもしれませんね。シンガポールは規模がすごく小さいんだけど熱心なグループで、アメリカはカーディストリー人口自体が多いです。
Rumi:シーン自体は今どんなフェーズ?
Jaspas:すごく若いステージにあって、今は成長が加速している段階です。カーディストリーの歴史は15年くらいで僕は初期のころ(13年前)からやっていますが、その頃はやってる人が本当に少なくて。最近は、カーディストリーを始める人が加速度的に増えていますね。
Rumi:じゃあ数年以内には、カーディストリーはすごく人気が出るかもしれませんね。
Jaspas:そうなってほしいです!
Rumi:みんなオリジナルの技(カット)を編み出したりするものなんですか?
Jaspas:そうですね。だから、カーディストリーをやる人が増えるほどカットのバリエーションも豊かになっていきますよ。
Rumi:となると、今は本当に一番大事な時期なのかもしれませんね。
Jaspas:はい、とても大きな過渡期だと感じています。昔はただの趣味として始める人が多かったですが、今はスクールをやっている人もいるし、カーディストリーを仕事にしたいと情熱を燃やしている人もいます。このフェーズはものすごく大切ですね。ただ、未来になったらなったで「今が一番大事な時期」って思ってそうですが(笑)。
Rumi:たしかに!
「新たなものを生み出すために、自分の限界に挑戦したい」
Jaspasくんがカーディストリーを始めた頃はまだシーンの灯火も小さく、様々な技を正確に、あるいは体系的に学ぶこともできませんでした。そんな厳しい環境の中、当時14歳だった少年がこのパフォーマンスに惹かれ、そこから13年間続けていく過程でで見出したこだわりとは何だったのでしょうか?
Rumi:カーディストリーを始めたきっかけは?
Jaspas:実はもともと手品をやってたんですが、1〜2年くらいして、14歳のときにカーディストリーの楽しさにふれました。手品は自分以外の誰かのためにやるものだけど、カーディストリーは自分の限界を広げてくれる。新しいものを生み出すために挑戦する感覚が好きですね。手品はベーシックな技でも人に感動してもらえるけれど、カーディストリーはもう少し一生懸命練習しないといけない。そんなところも好きです。
Rumi:Jaspasくんの動画にはストリート・パフォーマンスっぽさも感じるんですが、影響を受けている表現ジャンルはありますか? 私はダンス経験者なんですが「ダンスっぽい要素もあるなー」と思って観てました。
Jaspas:(Lorettaを指して)実は僕たちも、ダンス(ポップとロック)をやってます。そこからインスピレーションを受けることもありますよ。カードのアイソレーション(例:カードの位置を止めた状態で身体を動かすとき)など、ダンスで得られたアイデアを混ぜていくこともあります。
Rumi:おお、そうなんですね。他のジャンルではなくポップとロックを選んだ理由はあるんですか?
Jaspas:自分の好みですね(笑)。でも、カーディストリーとの相性はいいと思いますよ。ロボットっぽい動きとかも応用しやすいし。
Rumi:たしかに言われてみればそうですね。ほかに影響受けてるカルチャーはありますか?
Jaspas:コンタクトジャグリングや、ときどき機械からも影響を受けます。機械じかけでリピートする動きが美しいなぁと。あとは、自然からインスピレーションをもらうときもあります。たとえば虹がかかるような動きや、滝もそうですね。
(と会話しながら、虹がかかる様子や花火が花開いていく様子などを模したオリジナル・カットを次々と披露するJaspasくん)
Rumi:面白い! 目にする身の回りの全てがアイデアになる感じなんですね。ちなみに、カーディストリーにおける「自分らしさ」はどこだと思いますか?
Jaspas:複雑さよりも、流れの美しさが好きなところでしょうか。自分のカーディストリー動画では、ストーリー性を大事にしています。たとえば、映画の最初のシーンで人が死んだとします。そのとき、ストーリーの背景が分からないと感情に訴えるものが少ないですよね。同じように、カーディストリーで感動させるにはストーリー性や理由が必要だと思っています。ただの事実じゃなくてね。
Rumi:ああ、すごく分かりやすいです。映像を学んできたJaspasくんらしい組み立て方ですね。
まとめ
自分の限界を押し広げて新たなものを生み出したい。そんな気持ちで新たなカルチャーシーンに飛び込んでいった少年は、13年後、シーン自体の限界を押し広げる存在となっていました。
私は、そうやって新しいカルチャーが生まれ育っていくのを見るのがとても好きです。
カーディストリー界ではアジアの中心人物といわれているJaspasくん。実際に話してみた印象はびっくりするほど穏やかなキャラクターで、かつ表現に対する情熱とロジカルな思考を併せもつ魅力的な人でした。そして、話を聞けば聞くほど興味が増すばかり。これはなかなか奥が深そうだ…!