首都レイキャビクの情報をネットで探していたとき、どうしても行きたい衝動にかられた場所「ハート・ガーデン(The Heart Garden / アイスランド語では『Hjartagarðurinn』)」。
べつに観光名所でもなんでもないんですが、大きなグラフィティ・アートが散在するレイキャビクの街中でもとくにエネルギッシュな作品群が壁面を埋め尽くす広場の写真を見て、気になって気になってしょうがない日々が続きました。
理由も分からないまま強い引力を感じ、絶対ここに行かなければならないと思うようになり。ついにはGoogleマップのStreet Viewで位置を探し出して行ってきたのです(←その執念を仕事にも燃やせ)。
ところが現地に着いて、愕然…。
あの活き活きとした作品たちは、あの広い空間は、寒空の下、冷たくなって塀の中に囚われていたのです。絶対に行きたいと思っていた同じエリアの音楽バーも閉店して塀の中に。なんだろう、この光景。まるで殺されたカルチャーの屍を見ているような。
息をしない建造物たちの残り香を嗅ぐように塀の隙間や高い場所から中を覗こうとしたものの、ほとんど何も見えないまま。唯一、この中に辿り着けそうな裏道も板で塞がれていて、その板に「Ass Holes」と書き残した見知らぬ地元民の気持ちがよく分かります(冒頭写真)。てか、地球の裏側まで一人旅して何こそこそやってんだろ、自分…。傍から見たらだいぶシュールな旅行者ですよね。
でも、これをきっかけにハート・ガーデンについて色々調べてみたところ、地元のアートコミュニティの熱いストーリーがあることを知りました。日本語の情報が全然ないので、今日はこのブログでいくつかの英文記事を翻訳しつつ紹介できたらと思います。もうあのグラフィティ・ワールドの中心に立つことはできないけれど、だからこそ残したい。
世界の裏側で息づくこうした活動に、少しでも何かを感じてもらえたら嬉しいです。
破綻の象徴だった空き地を「希望の土地」に変えた地元アートコミュニティの存在
首都レイキャビクの中心部(Laugavegur通りとHverfisgata通りの間)に位置するハート・ガーデン。この場所は、地元で活動するTómas Magnússonさん、Tanya Pollockさん、Örn Tönsbergさんの3人が率いるアートコミュニティによって経済破綻後に命を吹き返し、街の人々に活気を与えた場所だったんだそうです。
もともとこの場所はショッピングモールの建設予定地だったのが、2008年の経済破綻により計画ごと頓挫。そのまま放置されてしまった空き地に可能性を見出し、清掃を始めたのが彼らでした。きれいになった広場にはステージが設置され、テーブルやベンチ、子供たちのための遊具が持ち込まれ、さらにスケートボードのランプも建設。そして、ついには人々が集う活気あふれる公園に生まれ変わったのです。
当時の写真がこちら。
現地メディアThe Reykjavik Grapevineによる当時の記事はこちら。
Home Is Where The Heart Is
こういう活動、地元の若い人たちから沸き上がってくるっていうのがいいですよね。住んでる場所も話す言葉も違うけど、エネルギーが鮮明に伝わってくる。それは企画する側にとっても楽しむ側にとっても、絶対に感じるところが多いはず。
活動に参加していたJelena Schallyさんは「2012年夏、ハート・ガーデンは人々を1つにまとめ、自分を救ってくれた場所だった。また、同じように多くの人を救ったのではないかと思う」と当時を振り返っています。うん、すごい分かる気がする。Huffpost Styleによると、ハート・ガーデンは破綻したアイスランドにとって「希望」や「変化」の象徴だったようです。
「希望の地」の終焉とレイキャビク市の姿勢
しかし、そんなユートピアも長くは続きませんでした。
もともと放置されていただけの私有地だったわけで、今回、ホテル建設のためあっけなく取り壊されることになってしまったそう。もちろん、公園を残そうという活動はあったようですが。まあ、私有地だし、分かるけど… なんか切ないですよねそういうの。街を活気づける場所としてほかの選択肢は選べなかったのかと、人ごとながら悔やまれます。
そもそもレイキャビク市はグラフィティ・アートに対して寛容ではないので、そういう部分でもなかなか厳しい状況だったことでしょう。こうしたアートをエネルギーだと感じるか、汚い落書きだと感じるかはもちろん人それぞれですし、許可のない私有地とあればネガティブな反応になるのは致し方ないところもあるんですが。
ちなみにレイキャビク市の発表によると、2008年の破綻当時、市内では公共スペースの42,000平方メートルがグラフィティ・アートで埋め尽くされていたそうです。これを受けて、同市はグラフィティ・アート撲滅キャンペーンを実施。街のグラフィティを除去するために、2008年だけで1億5900万 ISK(約1億4500万円)、2012年には5500万 ISK(約5000万円)を投資しています。
その結果、2012年12月時点で街のグラフィティ・アートは2008年当時の約半分(22,000平方メートル)まで減少。市はその後も毎月300万 ISK(約270万円)をグラフィティ除去のために費やしています。この動きは「グラフィティへの戦争である」とThe Reykjavik Grapevineでは語られています。
さて、夢から醒めて土に還ってゆくハート・ガーデンにもう未来はないのでしょうか?
一応、次の場所も探しているようですが、候補地が街の中心部から20分離れているので、今までどおり気軽に集える場所にはならないようです。もしかしたら、今はもっと良い場所を見つけているかもしれませんが。
でもね。でもですよ。
少なくとも地球の裏側から遊びにきた日本人が、跡地を見ただけでここまで調べて人に語っちゃうような場所に魅力がないわけない。ホントに頑張ってほしいなと思います。今回の消失はとても大きいと思うけれど、これが良い新陳代謝へのきっかけになればいいなと願っています。
[Huffpost Style, The Reykjavik Grapevine]