校長先生を送る「サプライズ」卒業式

青木和幸

人生は想像力を超える。
だから未来から目が離せないし、夢とか希望を持ち続けてほしいんです。
大人になった今だからこそ、もっと大きな夢とか希望を。

   *

さてこの春、私が横浜でデザインを学んでいたときの師匠・青木和幸さんが島根県奥出雲にある専門学校の校長を退任されるということで、関東時代の教え子たちみんなでこっそり島根に押しかけ「校長先生のサプライズ卒業式」をやってきました。
 

退任ではなく「卒業」と言いたかった

 
個人的に、「退任」という言葉はどうもしっくりきませんでした。これまでの積み重ねの先にある、もっと大きな未来や希望を感じられるような出発点としてお祝いするべき、したいと思っていたんです。島根に先生を訪ねた2月、別れ際にふとあるアイデアを切り出してみました。
 
「先生、来月デザイン学校の卒展やるなら校長先生の卒業制作も出してくださいよ」

突然の無茶ぶりに戸惑うご本人を半ば強引に説得しつつ「私、見に来ますから絶対に作品出してくださいね」と念を押して帰りのバスに乗り込んだ私。そしてその瞬間から、関東のメンバーたちへ一気に連絡を取り、このサプライズ企画がスタートしました!

奥出雲

(まだ雪が残っていた2月の奥出雲)

 

関東メンバー各位。来月は島根にこっそり集合しますよ

 
「みんなで日にちをあわせて島根に集合し、こっそり卒展を見たあと飲み屋で待ち構えてサプライズで卒業式やります!」

まぁ冷静に考えるとめちゃくちゃな企画ですよね。
平たくいえば「島根で飲もうよ!(ほぼ全員、関東在住だけど)」という連絡なわけで。

ところがその反応の良さに私自身がびっくり。
すぐに予定を調整して旅の手配をしてくれた仲間たち、どうしても現地に行けないからと記念品を制作してくれたり手紙や寄せ書きを準備してくれた仲間たち…。

20年前の教え子である一期生から専門学校の教務課スタッフのみなさん、横浜以外の教え子たちまで連絡が行き渡り、いつのまにか参加者は総勢数十人にまで増えていました。
 

数十人の想いと一緒に旅する、出張卒業式

 
企画から当日まで約1ヶ月。

小さな思いつきから始まったこの企画に、現地ツアー組も関東ステイ組も自由に趣向をこらしてくれました。しかも数年ぶりの連絡なのに息のぴったり合う感覚がすごい。同じ師匠の血が流れてるってこういうことなのかもね。

さて、当日の島根はこの季節にしては珍しいほどの快晴。友人一名と宍道湖のほとりをぶらぶらしながら、卒展が行われている島根県立美術館へと向かいます。

島根県立美術館

(夕陽の名所としても知られる島根県立美術館)

 
学生さんたちの作品を見つつお喋りしつつ、展示室の奥へと進んでいくと…

あ、あった。先生の作品。

青木和幸

校長 青木和幸
「立、平、斜」の3作品に私たちが向かうときの、その本質的な響きを感じるのです。

青木和幸

青木和幸

青木和幸

物事をそぎ落としてシンプルにしたとき、新しい何か弾けて生まれる瞬間の音やきらめき。その美しさ。まさに私たちが学んだことでした。

本当にいつも「本質」を教えてくれていた。
きっと島根でもそんな日々を送っていらしたんだろうな。

島根県立美術館から見渡す宍道湖

作品鑑賞後、美術館の庭から宍道湖の日没を見届けて少しお茶をしてから、いよいよ会場となるお店へ到着です。

先生、この一ヶ月間ずっと騙しててすみません。
こじんまりと3人で飲もうなんて言ってたのは嘘です。
この階段を登りきればみんなが待ってます。

あと3段、あと2段…
先生、いま目の前に何が見えてますか?

「あれ? ひょっとして僕は気が狂ったのか…?」

懐かしい面々の笑顔に囲まれて、しばらく状況が飲み込めないでいる先生。そりゃそうですよねえ。関東からみんな来るなんて思いませんよね。ふっふっふ。

しかしここではまだ卒業式について明かしておりません。ふつうに和やかな飲み会の終盤、宴もたけなわとなったタイミングで教え子たちがガサゴソしはじめ、

「先生、これ何だと思いますか?」
「え? 額縁… 絵… 写真…かなぁ?」
「あー。デザインやってる人の思考の縛りですね」

などとはぐらかし、からかいながら記念品当てクイズ。

青木和幸
青木和幸

(???だらけの師匠)

 
そして包みから開けたものは… 幅約1メートルの額に入った手描きの卒業証書!

ここから始まる卒業式では、大きな大きな想いのつまった巨大な卒業証書授与に始まり、額の裏につけたポケットにみんなからの手紙や寄せ書き、贈り物を入れてプレゼント。大きな笑い声と大粒の涙が溶け合う、最高に温かい一夜になりました。いやー楽しかった。サプライズ大成功!

ほんとね、いま思い返しても夢みたいにふわふわしてる。
一瞬のようで、永遠のようで、だけど何年後かに振り返ったら、きっとこれも過程でしかないんだろうな。みんなの大切な未来の過程。

   *

ちなみに、集合写真は載せません。
今回来れなかった人も、同じ気持ちでその場にいたかったはずだから。
なので、男泣き中の先生と卒業証書の2ショットだけどうぞ。

青木和幸先生と卒業証書

卒業証書
          青木和幸殿

雪にも負けず向かい風にも負けず
世界への愛情を失わず
一歩ずつ大地を歩いてきた
貴方の背中は私たちの誇りです
どんなに分厚い「雲」にも
その「奥」には太陽がある
これからも「出」っぱっていいんです
愛おしい毎日を生きてください
卒業おめでとう

平成二十七年三月十四日
関東青木組一同

うん、やっぱり先生には「卒業」って響きが合ってますよ。
希望に満ちた季節が、また巡る。
 

おまけ

 
青木和幸

そういえば、青木先生が携わっている出雲旅行の本が非常に評判良いみたいです。出雲に行かれる方はぜひ一度チェックしてみてくださいね〜(勝手に宣伝)。

あたらしい出雲旅行
広沢 真貴子 青木 和幸
WAVE出版
★4.5

 

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